家と草木のアトリエhausgras

下川町で炭になった間伐材 除伐材

除間伐された小径木が炭になる

下川町の木材循環2
木からモノに 山から町の人へ

北海道上川郡「下川町」の木材循環の試み、伐った木は無駄なく使う。
山で生長して切り出された原木は手を加えられて、板材・くん炭・バイオマス燃料・炭・枕木に。
「森林資源のカスケード利用」と最近は言われ始めた、その木材加工・製品製作の現場の様子です。

下川町内の山々で育てられたトドマツやカラマツは、下川町森林組合などの木材加工工場に運ばれ、大径木は無垢板や集成材として製材加工されます。

下川町森林組合の木材加工工場

ここは、下川町森林組合の木材の加工工場。
見学した日は、カラマツ無垢材の羽目板(天井、壁に貼る板)と床板の加工、それから、カラマツ集成材の面材をサイズカットする作業をしていました。

下川町森林組合のカラマツ板 カラマツ羽目板 カラマツフローリング

カラマツ無垢材の床板。
厚さ1.5センチ、幅15センチくらいの本サネ加工。カラマツのハッキリとした杢目と艶のある赤味がかった木肌が美しい。
無垢材には代えがたい魅力がありますが、縮み、反り、割れなどを覚悟して使うことになります。

カラマツ集成材の面材。
3〜4センチ角の小割り材に製材され人工乾燥された後、再接着されて大きな面材に。そうすることで、大きな面材でも反りや割れがかなり抑えられます。
ちなみに、この集成材を専門につくっている工場は別の場所にあります。

カラマツ集成材の板 集成面材

この加工工場のモルダーから出た「オガくず」は集塵機で集められ、敷地内のある場所に送られます。

それは「オガくずを炭化させる」工場。

下川町森林組合のオガクズをくん炭にする工場内

燻し続けるオガくずを黙々と見守り管理する人と、この工場の闇と少ない開口部から差す光が印象的な空間。
私は実際には見た事はありませんが、炭坑の中の、あるシーンに近いかもしれません。

炭化を始めたオガくずの山に火がつかないように見張る役目は24時間体制です。

オガクズを炭化させて燻炭に くん炭

堆肥をつくる場合と同じように、オガくずは下の方からゆっくり炭化していきます。
オガくずが積まれている場所の床には、いくつかの風道があり、燃焼に必要な空気はそこから供給され、出た煙もそこを通って排気されます。

出来上がったオガくずの炭「くん炭(くんたん)」。

しもかわ炭素 くん炭1

「しもかわ炭素」という製品名で流通しています。
ミネラル分が豊富で、土の通気性や透水性を改善させる土壌資材として好評のようです。

しもかわ炭素 くん炭2

「オガくず」だけでなく、より細かい「オガ粉」も回収されます。

オガ粉の袋詰め

集められたオガ粉は「ペレット」より大きい円形木質燃料の「プリケット」に成形固化し、
下川町内にある「木質バイオマスボイラー」の燃料として使われ、暖房用温水の熱源燃料となっています。

おが粉をペレット プリケットに

また、これらの木材加工の副産物だけではなく、町内の道端や空き地に繁る「イタドリ」などの生長量の多い植物を刈り取って使う、
やはり、木質燃料となる「バイオコークス」の開発、実践にも取り組んでいるそうです。

下川町森林組合の木質バイオマスボイラー

下川町森林組合の木材加工工場の敷地内にある「木質バイオマスボイラー」。

木質バイオマスエネルギーの利用を推進している町でもある下川町。
町内の公共施設の暖房のうち、2011年度は50%を、その5年後の2016年度は64%を、木質バイオマス燃料でまかなっていると報告されています。

山で大径木に育つ前に除間伐されたの小径木は「松炭」にされます。

間伐された除伐された丸太の山
下川町森林組合の炭焼き窯

下川町森林組合には、耐火煉瓦積みとセラミックで厚塗りされた炭焼き窯が2基あり。窯の内部は幅2.7m 高さ2.7m 奥行き3.6mくらい。

下川町森林組合の炭焼き窯で焼き上がった松炭

この炭焼き窯で焼いた、長さが1間ほどの小径木の炭。

長さ30センチくらいに切って箱詰めされます。

間伐除伐されたマツの丸太が松炭に

下川町でつくっている炭は「松炭」。
松炭の特徴は、火付きがよくて、すぐに高温が得られること。そして焚いた後の灰が少ない。
ただ、火持ちは「ナラ炭」などの広葉樹の炭より短いようです。

さて、次のモノです。
松炭を作る課程で「木酢液」が抽出されます。この木酢液を使って、カラマツ平角材を木酢液漬けに。

カラマツの平角材
下川町森林組合の木酢液漬けプール
木酢液のプールに漬け込まれるカラマツ材

木酢液漬けされたカラマツ材は、これまた、炭焼きで発生する燻煙を集めた燻煙窯に入れられて燻されます。

燻煙窯で燻煙されたカラマツ燻煙枕木 下川町森林組合製

燻煙処理が終わったカラマツ材。正にチャコール色、木炭色になりました。
下川町森林組合の主力木製品のひとつ「カラマツ燻煙枕木」の完成です。
かなりの手間と時間をかけて作られていることが分かりました。

一般に使われている中古枕木には、クレオソートなどの防腐薬剤が浸透しています。
防腐薬剤の影響が気になる方々から、ガーデニングや家庭菜園の縁どりなどに、この燻煙枕木が選ばれているようです。
5月から始まるガーデニングシーズンは、供給が追いつかないほど売れるそうですから。

近年注目され始めたトドマツの葉から抽出した「トドマツオイル」も、下川町森林組合で作られていました。
純度の高いトドマツオイルだそうです。

トドマツオイルの抽出機

トドマツオイルの抽出機。この容器の中で上澄みにオイル、下部に芳香蒸留水、と分離され取り出されます。

トドマツの葉

トドマツには「ボルネオール」という成分が多く含まれていて、トドマツオイルを実際にかぐと、優しく爽快な香りがします。
この香りにはリラックス効果があり、防虫と消臭効果、特にアンモニア防臭に効果あり。

緑の中で清々しい爽快感を感じると思い出す「フィトンチッド」という言葉が正に当てはまります。

下川町の実践していることは、ひと昔前の日本にはどこでもあった、自然の循環に足並みを揃えた人と里山・山林の様子を見るようでもあります。
でもまた、普遍的な地域の木材循環の中で得られるものを、今の需要に見合うものとして再発見し付加価値としていく、新しい試みでもあります。

地域にあるもの、身近なものの中には、普段は気づかない魅力・価値が存在しています。
じっと見つめて、何かを見出し、そして新しい魅力・価値あるものとして表現させる。
そういう試みの循環の中で暮らす人たちは、地域への愛着と信頼感、安心感にあふれています。

それは、北海道で家を建て暮らす建主さんにも、その家づくりに携わっている私たちにも共通する思いです。

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