10月下旬に訪れたアルテピアッツァ美唄(びばい)。
ヤマザクラ、ヤチダモ、ハルニレなどは、多くの葉を落としていました。
もう落ち葉集めをする季節です。
3本のシナノキと古い木造校舎。敷地内の樹々は、どれも伸びやか。
鈴懸の木(プラタナス)とカツラ。カツラは黄葉がピークでした。
バナナの房のようなカツラの種子袋。一個は長さ1センチくらい。
この中に一枚羽根の薄い種子が重なって入っていて、袋が割れると風で飛ばされていきます。
今は安田侃(やすだかん)彫刻のアートスペースになっている、弧型屋根の旧体育館とシナノキとベンチ。
白い大理石の玉石が敷き詰められた丸い池。
イタリアのミケランジェロの石切り場から運んできた大理石らしい。
水と光と影を集める、白い彫刻と流れと溜り。
無垢な心を表しているのだろうか。
木造校舎の2階はギャラリーになっています。入ってみると、懐かしい古い木の香りが。
南東側の格子窓からは、柔らかい秋の日差しが教室の中程まで差し込んでいました。
こんな陽気の日に授業があった、間違いなく居眠りしてしまうことでしょう。
ギャラリーとして生まれ変える際に、水平天井を撤去して、敢えて見せるようにしたと思われる木の小屋組み。
その気持ちはわかります。この見応えですから。
日本では「洋小屋」と呼ばれている木造軸組トラスの小屋組み。これは「キングポストトラス」です。
真束(キングポスト)・陸梁(水平梁)・合掌(登り梁)・方杖・挟み・筋交い・振れ止め、で構成されています。
「曲げ」外力がかからないので、校舎や酪農倉庫などの大きな屋根面を比較的小さい断面の木材だけで構成できるのが利点。
ただ、木材の接合部がいくつもあるので、多くの金物が必要になる工法です。
ガラス格子窓の外には、園児たちの姿。
この古い木造校舎の2階はギャラリーとして再生利用されていますが、1階は美唄市立栄幼稚園として現役の校舎でもあります。
窓辺にはトンボの姿も。
迷い込んで出られなくなったかと思いましたが、何匹もいる。ここに居たいようです。
「オツネントンボ」(越年とんぼ)というイトトンボの仲間で、この教室の窓辺で冬を越すらしい。
秋の風景と空気の中、古い木造校舎と、か細い蜻蛉(かげろう)。
ノスタルジー(郷愁)を誘わずにはいられません。
長い廊下の床。
床板(フローリング)はミズナラ。ミズナラ特有の杢目に「斑」(ふ)が入っているので分かります。
腰壁の羽目板はマツかな。
廊下の壁には、谷川俊太郎さんの詩が掛けられていました。
直筆らしい。「の」の字が印象的です。
そらのあお
くものしろ
みずのあお
いしのしろ
たいようのきんいろ
くさのみどり
きぎのあか
ひとのいろいろ
うつくしいうたの
はるなつあきふゆ
ビバ美唄
アルテピアッツァ
谷川俊太郎
一九九九年九月十三日
幅は2メートルくらいありそうな、広い木製階段。
手すりもミズナラの無垢材で作られています。
手すりの角の支柱頭は、かつてここに通った生徒たちに長い年月毎日撫でられて、よい艶と丸みになっていました。
木造校舎を後にして、カフェ・アルテに向かいました。
窓辺にL字に据えられた一枚板のカウンターと木の椅子。
広場を眺めながら、エスプレッソとパウンドケーキをいただきました。
カフェアルテを出た後、すぐに帰るのがためらわれて、しばし枕木の丘(天翔の丘)で佇む。
そんな思いを抱かせる場所なのです。
それから5年経ち・・・
再び、10月下旬に訪れたアルテピアッツァ美唄。
運よく、ちょうど紅葉がピークで快晴でもありました。
丘に続く枕木の道と紅葉と青空。
アルテピアッツァ美唄には何度も来ていますが、いつも気持ちよく受け入れられている気がします。
丘から見下ろす、古い木造校舎。
周りの樹々、山並みと同化したように佇んでいます。
このサクラは、もうすっかり紅葉して散ってしまっています。
サクラの落ち葉に交じって、プラタナス(アメリカスズカケノキ)の落ち葉も。
お気に入りのアングルから、木造校舎と山の紅葉。
木造校舎の外壁は、下見板張り(下見張り・鎧張り)。
この張り方は、木を積み重ねたような量感が出て、安定した感じに見えると思う。
コブシの黄葉とサクラの紅葉と木造校舎。
時折吹き抜ける風が、葉っぱをハラハラと散らしていきます。
そんな様子をしばらく佇んで眺めていると、校舎の犬走りを伝い、猫が近づいてきました。
猫も落葉をめでる思いがあるのかも。あるいは、私が餌をくれると思ったのかもしれません。
それでは、そろそろ移動して。
色づく鈴懸の木(プラタナス)、カツラなどを楽しみながら、斜面を上がって行きます。
これは、ブロンズ?の彫刻か、とはじめは思いました。
耳のような、はたまた顔のような形。
実はこの彫刻は「じん肺根絶の碑」です。
「大きく息を吸い込んで呼吸をしている肺をイメージした」作品とのこと。
除幕式では、「胸いっぱいの呼吸(いき)を・・・」という言葉とともにお披露目されたといいます。
じん肺で苦しんでいるのは、炭鉱や金属鉱山やトンネル工事現場で働いていた方々。美唄も炭鉱で栄えた歴史がある。
そんな縁で、安田侃さんが依頼を受けて製作し、2011年秋にこの場所に設置されたようです。
そういう、現実、記憶、思い、もここにはある。
そして向かったのは、またまたカフェアルテ。
こちらは、イチョウの黄葉とカエデの紅葉の真っ盛り。
それらにそうようにある、赤い板金の入母屋の屋根が印象的でした。
軒が深くそれを支える太い丸太の列柱など、お寺や神社のような雰囲気があります。
細いアプローチの赤いポーチ屋根と支える列柱も、連続する鳥居のように見えてきました。
エゾマツ並木にカフェアルテの建物はほとんど隠れ、ガラス格子窓がちょっとだけ見えている感じ。
端っこで奥まってひっそりと伸びる薪ストーブの煙突。
これらの佇まいもまたよし。
この秋も、ここで、ゆったりとしたよい時間を過ごすことができました。
群飛何年経っても変わらずに在り続けてくれている、アルテピアッツァ美唄と山郷の原風景です。
2019年10月下旬、秋が深まりつつあるアルテピアッツァ美唄にまた行ってきました。
敷地内のトドマツ木立ちの周りで雪虫(ゆきむし)が群飛していたので、撮って動画アップしました。
北海道の雪虫は「トドノネオオワタムシ」(椴ノ根大綿虫)。
春から秋の間、トドマツを住処にしていた雪虫は、秋が終わりに近づき初雪が降る頃、
一斉に飛び立って、冬の住処となるヤチダモやハシドイなどモクセイ科の樹へ移っていきます。
ずっと昔から変わらない、自然が織り成す光景・季節の移り変わり。
ここ、アルテピアッツァ美唄でそれを目にすると、何とも言えない恍惚とした臨場感があって印象深い。