家と草木のアトリエhausgras

レンガの白い壁

私にとって印象深い建築テクスチャ(質感、素材感、あり様)があります。

ギリシャ、イタリア、スペイン、モロッコなど地中海に面した町、家並みの白い壁。
スコットランド アイラ島に点在する、グレースレートの屋根と白い壁のウィスキー蒸溜所。
スイス アルプスの山岳地 グリンデルワルトには、1階部分だけがこの白い壁で、上階は濃茶色〜黒っぽい色のログや木板張りの民家がいくつも在ります。

この世界各地で古くから見られる、レンガ積みや石積みの凸凹とした表面に漆喰(石灰クリーム)を厚く塗った白い壁には、レンガや石の一個一個とがった輪郭をぼかしつつ、モノクロの陰影が静かに個の存在を意識さる絶妙さがある。
そして、積み上げられたレンガや石が白い石灰でコートされることで、視覚的にも構造的にも結びつきの強まりを感じるのです。

赤レンガ積みの外壁に漆喰を塗って白い壁に1

北海道で暮らす家のことを想像していると、何ヶ月間も雪の積もり続ける冬の白い風景とこのレンガの白い壁が、何度も思い浮かんできます。

雪の白と壁の白とが連続する、大地と家との白い一体的風景。

この地域で作られている赤レンガを下地とした白い壁は、北海道の気候風土と相まって、ここでしか体験できない魅力的な風景に成り得るのではないか。と私は思っています。

赤レンガ積みの外壁に漆喰を塗って白い壁に2

元々、レンガ積みと石灰には深い繋がりがあります。
ヨーロッパでは古来、石灰岩を焼いた粉(生石灰)に水を加えてクリーム状(生石灰クリーム)にし、これに火山灰(ポゾラン)を混ぜ合わせたものを、レンガ積みの接着剤として使っていました。

そしていつしか、壁の仕上げとして漆喰(石灰クリーム)を塗る地域が自然発生的にでてきた。いわゆる「スタッコ」とか「化粧しっくい」と呼ばれるもの。
それは石灰の持ついくつかの性質が、レンガ積み石積みのデメリット(欠点)を補なうからです。

赤レンガ積みの外壁に漆喰を塗る1

地中海の夏は日射しが強く、蓄熱しやすいレンガ積み石積みの建物はそのままでは暑くて居られませんが、白色の石灰を表面に塗ることで、太陽熱が反射されて蓄熱を防ぐことができ、建物の中を涼しく保てます。
一方、冬は外と室内の温度差でレンガ積み石積みの室内側表面は結露しやすくなります。
そこで石灰塗りの壁とすると、石灰の吸湿力で結露を防ぐことができると同時に、カビの好きな20度前後で多湿な室内の環境でも、強アルカリ性の石灰はその繁殖を防ぐことができるのです。
ウィスキー醸造所やワインセラーの壁に石灰がよく塗られているのも、発酵菌(酵母菌)以外の雑菌を繁殖しにくくするという効果があるため。

特に石灰の比率が高い白い壁には、自浄作用があることも知られています。
強アルカリ性の石灰は、付着した汚れの色素を分解することで自ら漂白し、壁の白さを永く保つのです。
白い壁は汚れやすいと思いがちですが、その経年変化は、ペンキを塗った白なのか、石灰を塗った白なのかで大きく違ってくるでしょう。

赤レンガ積みの外壁に漆喰を塗る2

それから、海沿いの建物にもよく塗られているのは潮風の風化に強いからです。
石灰の原料となる石灰岩は、海に貝殻や珊瑚や有孔虫が積もってできたもの。
日本では貝殻を焼いてる作る、貝灰漆喰(かいばいしっくい)というものもありますし、消石灰にツノマタ、フノリ、ギンナンソウなどの海藻糊を混ぜて作られるのが漆喰ですから。
石灰、漆喰は海からの賜物なのです。

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