灰墨の黒漆喰塗り壁と黒い杉板張りの床の間に置かれた、古伊万里の白磁の沈香壺。
漆喰塗りの壁で柔らかくこなされた光と、この白磁釉で強められる光の対比が、しっとりと美しい。
この座敷の畳は、七島藺(しちとうい)の縁無し畳です。
七島藺は通常の畳表のイグサより、5~6倍も強靭で耐摩耗性があります。それで縁無しにできるということもあるでしょう。
七島藺の断面は円形ではなく三角形。それ故にイグサの畳表よりも素朴で無骨な仕上がり肌触りとなりますが味わい深い。
この七島藺畳の実直な有り様は、この再生された古い町家にはよく合っています。
江戸時代の役場であった高山陣屋(たかやまじんや)の座敷にも、この七島藺の縁無し畳が敷かれています。
本来は入手するのも製作するのも難しい七島藺の縁無し畳なのですが、そんな縁と繋がりがあり、
七島藺の畳表も、それを扱える畳職人さんも、まだかろうじて高山には残っていました。
李朝の膳のひとつ「羅州盤」(ナジュバン)の黒塗りに、高麗青磁の徳利と地元高山の白川政之助 氏作の粉引ぐい呑み。
午後は、正面の障子戸を通して明るい光が入ってくる座敷。
最近の飛騨高山は外国からの観光客がかなり増えましたが、この辺りはその姿もまばら。
障子戸を開け腰高の敷居にもたれて、静かな町並みの往来を眺めていると、ゆっくり時間が過ぎていきます。
大黒柱と四方差しの梁組み。
新たに追加した柱と梁で、柱はヒノキ、梁はヒメコマツ(姫小松 五葉松)です。
大黒柱に寄り付く襖(ふすま)は、縁無しの「太鼓襖」(坊主襖)で白い和紙貼り。
梁の下面に襖溝を設けて鴨居を無くし、スッキリとシンプルにしています。
座敷の隣には板の間があります。
上下の梁間高さいっぱいの掃き出しガラス引き違い戸から、江名子川と石庭を眺められる。
懐かしい縁側のような場でもあり、エキゾチックかつリゾートな雰囲気もある空間でもあります。
軒先に簾(すだれ)を下げ、メキシコの民芸椅子「エキパルチェア」(皇帝の椅子)を置く。
アステカ時代(1500年代)から作られ使われ続けてきたというエキパルチェアは、
ローズウッドの小径木で組んだフレームに豚皮が張られた、素材感にあふれる椅子です。
李朝膳にのっているのは、倉敷の「倉敷ガラス」と高山の「安土ガラス」の品々。
どれも吹きガラス独特の味わい深さがある。
実はこの2つの吹きガラスには、高山を介してちょっとした縁があるのです。
ぐい呑みや茶碗などの陶器は、白川政之助(白政 しらまさ)さんの焼いたもの。
白政さんは高山の方で、古美術商、飛騨産業の創始者、陶芸家と多彩な経歴の人でした。
高山に暮らしていた頃、カズタアキコが白政さんと親しくお付き合いさせていただき、
ご本人から直接頂いたり、購入したりして集まったミニコレクションです。
再生工事で屋根形状を片流れに変えた結果、新たに出来たロフト部分。2階板の間の真上です。
町家の通風(風通し)をより良くするため、ロフトの江名子川側(屋根勾配の水上側)には引き違い戸を2組み設けました。
この町家の一番高い所にあるロフトの引き違い戸を開けると、夏場のこもった熱気が気持ちよく抜けてくれます。
階下の出格子(でごうし)を見下ろす。
西に面した1階の出格子回りは、午前中は静かな明るさ。
午後は西日が、端正な格子(吹き寄せ連子格子 ふきよせれんじこうし)の影を床板と壁板に映します。
石畳にも建具格子の影。