家と草木のアトリエhausgras

暖房システムのこと

冬が長く厳しい気候のドイツ北部の都市やデンマーク、スウェーデン、フィンランドなど北欧の都市では、発電所の排熱などを利用してつくられた温水が市内に巡らされた公共温水配管に流れていて、各家庭が給湯、暖房用温水として利用しているそうです。
この「地域熱供給」がなされている地域で発案されたのが、温水が流れる配管を家中に巡らせて全室暖房をする「温水セントラルヒーティング」。熱が逃げて寒さを感じ易いガラス窓の下に、それに見合った熱を補うパネルヒーター放熱器を設置。家の外周部も巡らせた温水配管からの緩い放熱でフォローしています。
冬の生活により多くの熱が必要となる寒冷地に暮らす人々の切実さが、「生み出された熱を効率よく集めて適切に分配する」これらの合理的なシステムを生み出したのです。

北海道の家で温水セントラルヒーティングにする場合は、残念ながら公共温水の供給サービスはないので、各家で暖房用ボイラーまたは電気温水器を設置して温水をつくることになります。
熱源はガス、灯油、電気、ヒートポンプなど何でも可能。温水は家中に巡らされた配管と窓下に置かれた放熱器をつなげた回路を循環し、要所に設置されたサーモスタットが温水の流れを自動制御して、家全体を24時間一定の温度に温めます。

石油熱源の暖房用ボイラー本体と銅管で組まれた暖房用の温水配管ヘッダー

hausgrasの事務所兼自宅のボイラーと温水配管。配管は銅管です。
整然と組まれた銅管回路のヘッダー部。
1階は浴室回路と外周回路の2系統。
2階は北西回路と南東回路の2系統。
そして外部ポーチの土間ヒーティング回路。
以上、全部で5系統です。
回路の往路、復路それぞれに設置されたゲートバルブ(真鍮製)を開け閉め調整することで、回路ごとのメンテナンスや流量調整もできるように配慮されています。

銅管と真鍮製のゲートバルブで組まれた暖房用の温水配管ヘッダー

温水セントラルヒーティングの温水回路には、「密閉回路式」と「半密閉回路式」があります。
回路を循環する温水(水)は温度によって体積が変わるので、温水を回路内に密閉して体積変化を回路の中で調整吸収するのが「密閉回路式」、温水を回路外に一部開放して体積膨張を回路の外に逃がす(空気中に逃がす)のが「半密閉回路式」。「密閉回路式」では空気中の酸素による酸化腐食の心配がないため、パネルヒーターは安価な鉄製ですが、配管接合部の気密に配慮した工事をしなければならなず、熟練した配管工技術が必要になります。一方、「半密閉回路式」では循環する温水中に常に新たな酸素が入り込むことになるので、パネルヒーターは酸化腐食の起きにくい銅製でより高価になってしまいます。

hausgrasの事務所兼自宅では、「密閉回路式」で鉄製のパネルヒーターを選択。
「密閉回路式」の配管計画は、なるべく単純なルートで均等な流量となるように、そして万が一、トラブルがあってもメンテナンスしやすいように配慮します。
北海道の家は高気密化高断熱化が当たり前になっている現在、温水セントラルヒーテーングなど設備やその他の性能も、それ相応の質の高さを求めていきたいと思っています。

窓下に設置された鉄製の温水パネルヒーター(放熱器)

温水の熱は、主に窓下に設置されたパネルヒーターで放熱されます。
冷えた窓ガラスが生む冷気が床を流れて広がる「冷気流」を、パネルヒーターから立ち昇る「暖気流」が打ち消し、「冷輻射」によって冷えた窓ガラスに奪われた体温は、パネルヒーターからの「輻射熱」で補われます。
窓廻りの寒さの原因に対して効果的な対応している窓下のパネルヒーターのおかげで、室内の温度は低めに設定しても寒さを感じないので、空気が過乾燥することもありません。必要以上に熱を使うことなくより省エネで、室内の空気を汚さず乱さず過乾燥させず、質の高い室内の空気環境を維持することができるのです。

冷やされた窓に生じる冷気流と冷輻射を暖房温水パネルヒーターが和らげる効果を説明したスケッチ

高気密化高断熱化され、窓の熱的性能を高めた家だからこそ生きる、窓下にパネルヒーターのある温水セントラルヒーティング。家全体の性能が有機的に働くこの仕組みは、大きなポテンシャルを秘めています。
暮らす人の理解と観察と調整が加われば、その恩恵は増していくので楽しくもあり、人と家との関わりをより深めてくれることでしょう。

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